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第百十二話 彩寧の新たな一歩

Author: 柳アトム
last update Last Updated: 2025-12-17 03:35:50
「はぁ? 良かったと思っているですって? 負け惜しみを言うんじゃないわよ! 自分の本当の父親がこれまで思っていた人じゃなく、充希みつきと姉妹でもなかったとわかって、良いわけなんてないじゃない!」

彩寧あやねの言葉を生意気な負け惜しみと真紗代まさよは受け取ったようだ。

感情をあらわにしたが、彩寧は涼しい顔だった。

私はそんな彩寧の姿を見て、彩寧の言葉は負け惜しみではなく、本心であると理解した。

「彩寧、良かったと思えるって、どういうこと……?」

私は彩寧に尋ねる。

「そうね。まず私が宗司そうじ先輩の妹なら、宗司先輩を好きだという想いを諦める必要がないってことね。これがそうではない相手に対する恋愛感情なら、自分以外の女の夫を好きだと想い続けるなんて不毛なことですから。

でも、妹なら兄を好きだと想い続けても許されるんじゃない? だって兄妹なんですもの」

「そ、そうね。それは確かにそうだわ。妹である彩寧が、兄である私の夫・宗司さんを敬慕したって非難されることじゃない。むしろ仲の良い兄妹として賞賛されることだわ」

「私が何より辛いと思っていたのは、宗司先輩を好きだという本心を諦め、捨て去らないといけないということ。そうしたことをしなくてすんで、本当に良かったと今は安堵しているの。これは私の本心よ。強がりや負け惜しみじゃないわよ」

私は彩寧の説明を聞いて納得した。

「さらに私が宗司先輩の妹なら、充希にも勝てるじゃない」

「───え? か、勝てる? 私に勝てるって、どういうこと?」

私は急に彩寧が勝利宣言をするので驚いた。

「私は愛した男性を充希に奪われたわ。争奪戦に敗れたの。充希は宗司先輩の妻で、私は宗司先輩のなんでもない女に成り下がったわ。でも私が宗司先輩の妹なら、私と宗司先輩の関係は途切れない。私はなんでもない女じゃない。宗司先輩の妹という確かな地位があるの。この地位は、充希にだって成り得ない。だって充希はどんなに頑張ったって宗司先輩の妹にはなれないんだから。宗司先輩の妹という特権は私だけのものよ。もしかしたら充希は宗司先輩と離婚するかもしれない。宗司先輩にとってなんでもない女に成り下がってしまうかもしれない。でも私はそうはならない。宗司先輩の妹という事実は永遠に残り続けるんだから」

私は宗司さんと離婚す
柳アトム

------ 【登場人物】 ------ ▼杵島 充希(きじま みつき)/旧姓:大和田 充希  宗司と三年という期間限定の偽装結婚をするが双子を妊娠。  紆余曲折を経て偽装結婚を解消し、宗司と真の夫婦となる。  双子を出産して育児に追われる日々を過ごし、疲労がピークに達している。  双子は姉長女の琴(こと)と弟長男の勇(いさむ)。宗司が新選組に因んで命名した。 ▼杵島 宗司(きじま そうじ)  充希の夫。充希とは幼馴染で、同じ中高一貫校に通った同級生。  子煩悩で育児に積極的に参加するイクメンパパ。  遺憾なくスパダリっぷりを発揮する。 ▼藤堂 幸恵(とうどう さちえ)  充希の担当産婦人科医で親友。  充希、宗司と同じ中高一貫校の同級生で剣道部の部長。  妊娠が発覚し、つわりの症状に苦しめられている。 ▼篠原 彩寧(しのはら あやね)/大和田 彩寧  充希の異母姉妹の妹。  中高一貫校の先輩である宗司が好きで、執着している。 ▼大和田 毅(おおわだ つよし)  充希の父。  大和田グループの社長。 ▼篠原 真紗代(しのはら まさよ)/大和田 真紗代  彩寧の母。大和田 毅の元妻。  自らの浮気が原因で大和田家を去る。 ▼忽那 碧(くつな みどり)  充希の産みの母。充希の父親の大和田 毅とは相思相愛。  総合病院の救命救急士。 ▼種村 崚佑(たねむら ゆうすけ)  幸恵の医大時代の同級生で、産婦人科医。  面倒見が良く、猫が好きで、動画配信も盛んに行っている。 ▼宗司の秘書  宗司が信頼する優秀な秘書。幸恵のダーリン。  名前は鬼灯 猿田彦(ほおずき さるたひこ)だが、皆から「秘書さん」と呼ばれている。 ▼杵島 巧三(きじま こうぞう)  宗司の父で、杵島グループの会長。  充希のお義父さんにあたる。

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